家に着いたのは、零時近かった気がする。奥さんを起こさないよう、静かにお風呂につかる。これは僕が決めている夜のルーティン。仕事終わりの強張った身体を1時間かけて緩ませていく。いつも39度ぐらい。5-6種類は常に常備している入浴剤から、その日の気分で選ぶ。どんなに遅く帰ってきても、この1時間があるおかげで、ぐっすり深い睡眠を取ることができる。
今日は、事業説明会だった。僕は都市計画の仕事をしている。日本においては切っても切れない自然災害。自然災害の被害リスクが高いエリアから、整備事業を計画・実行していく。被害を未然に防ぐための都市計画だが、近年自然災害が起きたことがないエリアもあるし、同じエリアでも自然災害とは無縁の地域に住む人たちもいる。そもそも起こるかわからないから今のままでいいじゃないか という感覚を持つ人々の理解を得るために丁寧に説明をした一日だった。普段の業務とは、毛色が違う重要な仕事だったので、身体的も精神的にも疲れていた。
入浴剤は自然由来の人工的ではない香りと決めている。天然のハーブの香りに包まれながら、好きな音楽に浸ったり読みかけの本を読んだり、誰にも邪魔されない自分の時間。何もせずに目を閉じて、お湯の柔らかい温度を感じる。
意味のない都市計画はない。意味があることを広く示して、大規模プロジェクトを進めていかないといけない。でも、この時間は誰かに意味を求められることはない。温かい感覚や揺れる波紋、お湯が滴る時の音。お互いが干渉せず、存在するだけの心地いい空間。
きっかり1時間経過した後、いつものように歯を磨き、少し遅くなってしまったことにやや反省しつつ奥さんが眠る部屋へ向かった。
---- 都市計画 28歳
この日々を寄稿くだ去った方の選書:
断片的なものの社会学 / 岸政彦
”路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ……人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ。"